NYでケースワーカーとして働いていた作者が妻と子供二人で田舎に引っ込んで育児をする、そのときのエピソードを短編でまとめた、所謂、育児指南書、だと思うじゃない?
確かにそんな感じで始まる。なんとなくとでも言う風に。
「贈り物」って話でガツンと揺さぶられる。スタバで読んでて泣きそうになった。
産まれたばかりの初めての息子、ケーシーが生後2日で突然、呼吸を止めてしまう。両親はパニックになり、作者はナイフで喉を切り裂いて呼吸させようかとまで思ってしまう。結局、救急車が来る前にケーシーは呼吸を始め、事なきを得る。
でも、実際にICUに入って検査したり、肺を洗浄したりしていると、余りに自分が無力で理不尽であることに深く傷つく。
そんなところに同じICUに入っている誰も付き添いの無い男の子の存在に気づく。誰も居なくて一人で戦っている新生児。
「どうしてだろう?」って思っているとやっと男の子の父親と母親、お姉ちゃんが現れる。家族はヒスパニックらしく、たどたどしい英語で父親が、事情を語り始める。
「パーティーの途中で産気づいてそのまま救急車で運ばれた。でも、途中で妻が失神して赤ん坊も途中で止まってしまった。酸欠で母子ともに危ない、と。妻は4日も意識が戻らなくてやっと意識が戻ったところだ。娘の世話もしなくちゃいけない。どうにかしてやっと息子を看に来れた。この子は咳が出来ない。だから、おれと娘でこうやって機械で取ってやらないといけないんだ。」
(この辺は、引用ではなく要約。ダラダラと引用して、読んだときに味が薄くなっちゃうよりはホントの文章を味わっていただきたいと。)
娘が横たわる弟の髪をいつまでも梳かしている。それを見ていた作者は、何故か判らないが、涙があふれるのを押さえられない。その男の子の父親と二人で立ち尽くし、ただただ溢れる涙。
「俺たちはみんな生きている。大事なのはそれだけだ。俺たちはなんとか生き延びる。砂の落とし穴にはまりこんだ妻と息子を持つ男が、僕を慰めてくれていた。」
(すみません、ここだけは引用。でも、この前の文章がスゴイので、そこはご自分で。)
そこで作者も息子が呼吸を止めたことを、語り始める。その後に、ヒスパニックの父親から、かれの息子の名前が、「サルヴィオ」だと教えられる。スペイン語で「神様からの贈り物」と言う意味だと。
これは、子育てに関するエピソードを紹介する短編集なんだけど、男が父親になる物語だ。視点が、最初から最後まで自分にあって動かない。子供のほうに感情移入しない。上のほうから見おろして、「こういうやり方がいいよ」とご披露するのではなくて、ひたすら子供について行きながら、驚いたり、気がついたり、思い出したりしながら、子供が前に前に進んでいくのを見守る。
そこで自分を「父親」にしてくれた子供に感謝する、そんな話。なので、子育ての秘訣とかコツとかルールを期待すると全然外れる。でも、心に残る。
最後のほうで、原題の「Believing It All」を使った台詞が出てくる。「パパは、全部信じてるよ」って。泣ける。
何度でも読み返したくなる本。今まで読んだ子育て本の中では、かなりTop。オススメ。
読みたくなりました。
投稿情報: hibinome | 2006/10/04 09:20