刑事が主役、探偵が主役、はたまた家政婦やら旅館の女将が主役、なんてミステリーものはごちゃまんとあるんだろうけど、空き巣が主役、しかもつかまったり、殴られたりしながら、色んなエピソードで事件や謎を解決していく、なんて物語はそうは無いんだろうと思う。
更に著者が冒険してるなぁと思うのは、いわゆる主人公が一人称で語る、というハードボイルドの枠をぶち壊すかのように、対話が主になっていること。そして対話の相手は、もう何年も前に母親による無理心中で焼死してしまった双子の弟だ、っていうんだからちっとやそっとでは驚かない私もそれなりに驚いた。だって、一人のアタマの中で二人が生きてて対話してるんだよ。そしてそれなりに人格を持って。でも、話としては非常に読み易くてぎゃくに驚いた。こんなにオカシナ設定なのに。
しかし、ハードボイルドってのは、種明かしというか謎解きをどれだけするか、説明をどこまでするのか、という部分で肌に合うとかキライとかが分かれる気がする。そういう意味では、この主人公の語り口とクールな視線は気に入った。その分、弟の語り口が甘めなのはしょうがないか、15歳で死んだことになってるんだもんな。
そして物語はだんだん佳境に入ってきて、「どうして弟が自分の中にいるのか」という究極の問題に対する回答を自分が見つけてしまったその瞬間に物語が終わる。その辺のザックリとした終わらせ方も著者は相当、苦心したんじゃないかと。
あの「半落ち」の著者なので警察の中の描写とかは秀逸。
で、タイトルの「思いきや」の続きは、「愛憎物語だったのね...。」
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