「イラク、クルド、窮屈な日々」という日本のジャーナリストがイラク戦争前後に現地で体験したことを纏めたエッセイを読んだので感想を書きます。
前にもイラク戦争に参加してのちに脱走兵となったひとが書いた本を読んで「おいおい、アメリカ人、ナニしてんだよ!」って思った。そう、現地の市民の家に押し入って金品を盗み、暴力で相手を圧倒するアメリカ兵。そしてみなさんご存知のアブグレイブ刑務所の虐待の辺りまで繋がってるハナシなんだけど、この本の中ではごくサラッとイラク市民の声を紹介するだけに留まってる。
でも、それよりもイラクという国の構造とかクルド自治区ってなに?とかいわゆるイスラム教シーア派とかスンニ派がどういう立ち位置で戦争というか状況を生き延びていってるのか?という辺りの方が面白かった。日本のような島国にいると実感出来ないことが沢山あるんだということを気付くにはとても良いエッセイだった。
以下、ちょっと気になったとこを引用。
戦争をどう思うか?と問えば、「よくない」とほとんどの人が応える。当たり前だ。良いか悪いかの二択なら、たとえブッシュ大統領だって戦争はよくないと言うに違いない。しかし、それなのに戦争を選ぶ人々がイラク国内にいる。アメリカではなくイラクの内側にいる。
イラクは一枚岩ではない。民族や宗派が入り交じるモザイク状の国家だ。便宜的におおよそに分けると、クルド民族が15%、アラブ人のスンニ派が20%、アラブ人のシーア派が60%、その他トルコマン民族やキリスト教系のアッシリア民族が数%といわれている。ちなみにクルド民族の殆どがスンニ派に属する。
クルドをよく知る日本人に「クルドに一般の人はいない」と言われたことがあった。家族や親戚や友人や、身近なだれかが殺されたり武器を手にしたり、戦争と無縁な生活はクルドにはないと。客観的な立場の人間はおらず、みなが戦争の当事者だと。
アメリカ兵が民家に踏み込む時、通訳はいない。アメリカ兵はアラビア語を話せず、住民は英語を話せない。住民は何が起きたか判らず、その後も理由を知らされていない。占領下のバグダッドは、逮捕状も要らなければ裁判もなかった。人を殺しても「ごめん」ですむ。
「約束は空に飛んでいった。繁栄、経済、電気、再建。民主主義という言葉は聞いたことがあるが、一度も見たことがない。」
こう云う状況だと男性は勿論だけど、女性とか年寄り、そして子供たちに途轍もない負担と言うか傷を残すんだよなと言う当たり前のことがよく判る。
短めでハードボイルドタッチな文体が気持ちイイです。イラクの抱えている問題をざっくり理解するためにはイイかも。おススメです。
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