「くらやみの速さはどのくらい」 という小説。
くらやみの速さはどれくらい (海外SFノヴェルズ)紹介文にも書かれている『21世紀版「アルジャーノンに花束を」』を実は読んでいないので、比較のしようが無いですが。
名作です。疑いの余地も無く。
ま、しかしSFというカテゴリなのかなぁと。ごく普通にフィクションですよ。たしかに近未来であることは確かなんでしょうが。場面として出てくるピザ屋とかスーパーマーケットとかは全く現時点の描写に見えます。それによってよりリアリティーが強まっていると思いますけど。
主人公が自閉症で、かつ全て彼の視点による文章になっているので、ある部分は非常に読みにくいと思われます。最後のほうで、まるで幼児が書いたようなひらがなだけの文章に出くわすと、客観的には「うわ!」って思いますが、そこに至る必然性を考えると逆に物凄いアクセントとなってこの部分無しでは成り立たないと。ただ、原文はどうなってるんでしょう?出来れば、原書で読みたくなりました。
色んなBlogで、自閉症であることと普通であることの対比、みたいな感想が有りますが、主人公からすると「自閉症の自分が、今の自分」であり、「自閉症が治った自分も、未来の自分」なんですね。自閉症による不具合は感じていても少なくとも絶望はしていないわけで。普通にフェンシングもできるし(これは普通以上か)、買い物も出来るし、恋愛だって出来る。ただ、自閉症で無くなった自分を想像できない、でも自閉症が無くなった自分も体験してみたいという衝動もすごく丁寧に書き込まれていてグッときます。
治療を受けるかどうかの決断の部分は、読み進むと「え!そうなの?」って思いましたが、受けないとストーリー的に成り立たないわけで。自分がいつしか感情移入しているのにちょっとビックリ。文章の力を感じます。
最後にひとつ。
一番最初の書き出しの文章、月に一度のカウンセラーとの面談の場面でのふと漏れる感想、と、治療の結果、自閉症が無くなって7年経ったある場面で生き生きと湧き上がるように発せられる一言、この2つの文章が大きなワッカが繋がるようにピタッと繋がる様は、見事としか言いようが無い。最後まで読んだ人は是非、冒頭のページをめくって下さい。
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