小田淳太郎さんが書いた「精神疾患と542試合のソフトボール―ある精神科医の試み」という本を読んだので、感想をば。
北海道三笠市という札幌から50キロくらい離れた場所にある地方都市で精神科医をやってる宮下均さんというお医者さんが、ソフトボールを精神療法に取り入れてなんと10年間で542試合もしちゃったというハナシを取材して本にした、というのがカンタンなまとめなんだけど。
臨床心理に興味がある人間からするとこの宮下さんの試みは「おぉ!なるほど!」と思うんだけど、よくよく読んでみるとある意味、この先生がちょっと病んでるんじゃないのか!?って思うようなその異常ぶりにビックリする。精神科医を減らされて激務をこなしながら、一人で交流戦の段取りから野球場のブッキング、 それに実際に自分も参加してガンガン勝ちにこだわるその姿勢、いやいや、これ、端から見たらその執着加減は異様。
で、実際にやってみると本当にそれが効果があるのかどうかなんて分かんない、みたいな独白もあり。
ここで選手として紹介される患者の精神科にかかるようになるまでの経緯が書いてあるんだけど、まぁ、ごくフツウにアルコール中毒とか薬物中毒とか、人がその状態になっていく物語がこれまた淡々と紹介される。この著者のひとも数ヶ月、鬱病で入院経験があるからこそ書ける内容だなぁと思う。
で、 すごいがんばって542試合もやったのに突然、「もう止める」って言ってやめちゃうところがいわゆるお涙頂戴系の物語とは違ってリアリティがありまくる。 そりゃ出来ないよな、フツウは。自分だって抗うつの薬、パキシル飲むぐらいなんだから。ホントにこれで家庭がよく壊れないもんだと思う。
ということで元々の文脈とはあまり関係無いけど、ちょっと気になったこれを引用して終わりにする。
僕もそうでしたが、アルコール依存者には虚勢を張りたがる人間が多いんです。病院ではリーダーシップをとりたがるし、大人しい統合失調症の患者さんを従わせたりする。弱い者に対して大きな態度を取ってしまうんです。それも、彼らの気の小ささの裏返しでしてね。ソフトボールの練習ではガンガン打つのに、札作連の大会や三笠ドームの交流戦になると、ガチガチになって打てないんですよ。背中に刺青をしていても、緊張のあまりエラーしますしね(笑)。
その点、統合失調症の患者さんは、冷静な人が多いのか、打撃でもコツコツ当ててくるんです。統合失調症の人が多く参加する札作連大会でもこちらは青ざめているし、彼らには全然勝てない。
でも僕は気が小さくてもいいと思うんですよ。自分の中の気弱なところに気づいて、それを認めることが、強く生きるという意味なんですから。
おススメします。
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