なんかこの主人公、観たことあるなーと思ったら、007の「慰めの報酬」で敵役をやった人、マチュー・アマルリックだった。アレの前に撮った映画なんだね、コレ。というのは置いておいて。
とにかく、映画はいきなり主人公が入院して昏睡状態から覚めたところから始まる。そして最初の15分くらいはほとんど説明らしい説明が無い。でもじわじわとこの人、元ELLEの編集長だったのに突然、脳梗塞になって全身麻痺になって左目と瞼しか動かないという状況になってしまったってことが分かってくる。
そこから現時点の麻痺している状況とまだ元気な頃の色んなエピソードがフラッシュバックの様に差し挟まれて物語は進む。そして段々この人の生活が見えてくる。
ちゃんと浮気はするわ、愛人と旅行に行くわ、旅行先でヘンなもの買わされてボーゼンとなるわ、オイシイ物食べまくるわ、仕事もするわ、年老いた父親の世話もするわ、で、売れっ子の編集長さん、良いとこも悪いとこもある、というのがしっかり描かれてる。
「感動の〜」なんてコピーがつくのかもしれないけど、少なくともこの人はあの状態になってもごくごくふつうの42歳のパリの不良オヤジとして存在してる。ちっとも変わってない。そして本を書いたことだって、ああやって書かなかったらきっと発狂してたんじゃないかなぁと思うんだよね。だって本を書いたのだって周りがちゃんとサポートしてくれたからこそ書けたんだから、感動するのは「彼だけ」に対してじゃないよね、と。
でとにかく脚本と演出がとても良くて映画っていうのはこうやって自由に作れるんだなというお手本の様な一本だった。なにやってもいいんだ!みたいな。視線と声にならないつぶやきをこうやって形に出来るところが素晴らしい。ホントに安易な説明的手法をガマンして使わなかった監督さんの勝利である。
フツウに生きてきたパリの不良オヤジが死ぬ前に皆に助けられながらちゃんと何かを残せた、というシンプルなメッセージを、一番最後のエンドロールのところで氷河の氷が崩れて海に落ちるスローモーションを逆再生しながら、「再生」というか「復活」というモチーフに乗せてるところがすごく良かった気がする。最後の最後までちゃんと観るとイイよ。オススメします。
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