ジョン・ル・カレ先生の名作、「リトル・ドラマー・ガール」を思い出した。ハマスというイスラムの抵抗勢力の創始者の息子に産まれついて、ハマスを裏切り、イスラエルのスパイとして活動し、全てに嫌気がさして今はアメリカに亡命しているモサブ・ハッサン・ユーゼフの自叙伝的な小説。
かなり内部の話が赤裸々に書かれているけど、あくまでも個人の視点なので、客観的に整合性がとれているかどうかはちょっと怪しい。でもそういう正しさを求める内容じゃない気がしてきた。
つまり、敬虔なムスリムの長男として産まれ育って、次第に宗教にもそれからパレスチナにもPLOにもイスラエルにも違和感を感じて、最終的にキリスト教信者として生まれ変わる。その理由はよくわからないけど、どうにも出来ない部分が有ったんだろうと。
ただ、イスラエルのスパイとして嬉々として活動する辺りが、あんまりにも脳天気なように見えちゃうのはどうしてだろう。ま、どうみてもヨルダン川西岸とかガザ地区にいたら、イスラエルのほうがよく見えちゃうのかもしれない。
途中で出てくるエピソードが面白い。イスラエルは西岸地区の占領地域にある軍事基地の鉄格子の内側に番犬ならぬ番豚が回遊するように通路を設置しているらしい。ムスリムが豚を忌避するから、犬よりは効果がある、と。マジかw面白すぎるというか実効的w
あと、イスラエルとパレスチナの問題を解決するためにはこんなことを書いている。
真実と寛容こそ、中東問題の唯一の解決策である。イスラエル人とパレスチナ人の間における課題は、その解決策を”見つける”ことではない。それを、”受け入れる”ことができる最初の勇者になることである。
そうそう。もうある程度、現実的な着地点はお互いに見えてるはずなんだよね。ただ、それを受け入れるかどうか、という話で。
個人的にはイイ本だと思うんだけど、個人的にこの本の一番悲しい部分は最後の最後に出てくる。ネタバレになるのを承知で書きます。ごめんなさい。
宗教も家族も裏切って、でも父親だけは理解してくれると思って、嘘をついて逃げてきた亡命先のアメリカから刑務所に拘置されている父親に電話をかける。そしてそこで自分がやったスパイ活動の全てを告白する。そして
「父さん、愛しています」と私は最後に言った。「父さんはこれからもいつも私の父さんです」
と伝える。父親は無言だった。
これがいつの時点かはわからない。でも訳者あとがきの最後に父親から勘当されたということがサラっと書いてある。全てを失って唯一許されると思っていた父親からも拒絶されて、この先、彼はどうやって生きて行くのだろう。キリスト教にすがって生きて行くのだろうか。
なんとなく目の前が暗くなる結末だった。イタイけど、リアルなあの地域の感覚が伝わってきた。イイ本です。
ちなみにル・カレ先生の「リトル・ドラマー・ガール」も久しぶりに読んでみよう。
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