この記事に反応してみる。特にAmazonのKindle Fireが搭載したX-Rayという自動的にハイパーリンクを作る機能はどうなの!という辺りに。タイトルは釣りです、はい。
http://www.dotbook.jp/magazine-k/2011/10/17/kindle_kills_bookishness/
紙の本と映画館で観る映画ってエンターテイメントを体験する際の状況としては対極の位置関係だと思うんだけど、どちらも良いコンテンツの場合、その世界に没頭出来る、いや、制作者側から言えば、没頭させられなかったら負け、ぐらい同じ効果を生み出す、と思ってる。ただ、映画の場合は、物理的にある時刻にある場所に居て、約2時間程度、暗闇の中でじっと前を見続けてる必要がある。つまり異常に肉体的に拘束性の高い体験を要求する。
翻って紙の本の場合、音楽を聴きながらも可能だし、電車の中でもバスの中でもお風呂の中でも体験できる。ただ、そこで脳に入ってきた情報は文字だけという最低限のものしか無い。だからこそ脳内で補完する必要がある、というか補完する事によってイマジネーションが拡がり、自分だけのストーリーや場面、登場人物が浮き上がってくる。
よくSFモノの小説の途中の挿絵に主人公とかヒロインの「姿」が出てくることがあって、「え!私が思ってたのとは違う!」と感じてしまうのは、文字だけの情報から自分なりの「姿」を作っているから。そう、文字だけの情報で本が成り立っているのにはワケがあると思うのです。
つまり良質の作品の場合、ヘンに文字以外の具体的な描写は必要ない。だからこそ数年を経て読み返したりすると新たな発見があったり、好きじゃなかった登場人物が愛おしくなったりする。要は、脳による補完機能があるからこそ本というメディアは成り立っている。つまり本はその物語を読んでいる読者に「わかんないことがあっても自分で考えろ!感じろ!想像しろ!」と言ってるのではないか。
映画はそこをもっと過剰にサラウンドやら3Dやらで供給者側が補完している。でも本と同じでその世界からは離れるな!離脱するな!ということを極限まで突き詰めている。それが映画館というハコである、と。
では、それを補完する機能を本側に付けるとどうなるのか?というのがKindle FireのX-Rayなのでは無いか?と思うわけです。
つまり大事なことは、本来はわかんない単語があってもとりあえずその物語から離脱させない。映画の場合で言えば、物語に没入させたいのにプロダクトプレイスメントをやってその品物に意識が飛ぶようなことはさせない。そういう本来、著者が目指すべき目的をKindle FireのX-Rayは見事に破壊出来る。
つまり、この記事にある「紙の本が持つ本質的な特徴の一つは端、境界(edge)があることだ」「アルゴリズム的精神が文学精神を完全に無視し始めている」とはそういう離脱させるべきではない一つの独立した創作物であるところの「本」がこのやたらとリンクを製造する機能で台なしになるんだぜ!という警告ではないのか、と。
ビジネス書とかハウツー本の場合は、リファレンスがあったり、動画にジャンプ出来たりしたら便利なのかもしれないけど、その場合でもあくまで作者が意図したものに限定するべきで、Amazonの恣意的なリンクが設定されたビジネス書とか小説なんて著者さん的にはどうなんだろうか?
むかしホリエモンがテレビ局を買収してネットと融合出来る!みたいなことを云ってた時に「だってテレビとネットが融合したら月9のドラマ観ながら、主人公がしてた腕時計をネットから買えるんですよ、これって便利でしょ!」みたいなコメントに対してテレビ屋さんからは「そもそもドラマ観てる時に小道具に意識が行っちゃうって時点でそのドラマは終わってる」みたいなことを書いてて、本当にそうだなと思った。まぁ、何度も観てる時に、ならありかもしれないけど。
コンテンツ屋さんとしては本流のコンテンツで相手を没頭させられないで小道具で売ろうなんて間違ってる。だから、Kindle Fireも「X-Rayがある→だから著者のコンテンツ(本)が豊かになる」のではなく「そんな余計なものを勝手に追加するな!勝手にまとめるな!」という作り手からの拒否権の発動があるべきだし、それを実現できる機能をAmazonは付けるべきだと思うのです。
もちろん、Amazonがやってくれるなら手間が省けてちょうどイイっていうズボラなビジネス本作家が居ても不思議じゃないけどw別に誰とは言いませんが。
ということでこの記事の著者さん(yomoyomoさん)とは違ってじゃぁ、一体どのくらいそのX-Rayは「読書という自己補完体験」を台なしにするのか、体験してみたいと思ったワタシはひょっとするとちょうドMですかそうですか。
でも登場人物の一覧は速攻でアクセス出来るとイイかも知んないなぁと推理小説ファンとしては思ったり。とりあえず早くコイ!日本語版Kindle !!
追記:よくよく見たら、X-RayってFireだけの機能じゃなくて全部の新Kindleについてるのね。(・ω・)まつがってたよw訂正しますた。
http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20110929_480404.html
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