最初に洋楽に触れたのが、John DenverとCarpentersだったというのは、今にしてみれば、恥ずかしいけど、それ以降は何故か、イギリスものがメインだった人にとって、Bob Dylanという人はかなり不可思議な存在だった。
凄く有名な曲もあるし、いろんな人がカバーしているし、アルバムカバーもだいたい見た覚えがあるんだけど、ちゃんと聴いたことがないし、よく判らない。ということで最近出た、「No Direction Home」というDVDを観た。Bob Dylan自身が過去を振り返ってインタビューに答えている映像と当時のライブやら普段の映像やら盛り沢山。DVDが2枚もあるので、長い気がするけど、結構、一気にイケル。
時代の動きとDylanがどれだけ関わっていたか、というかある時期(64~6年ぐらい?)ってのはBob Dylanは時代のアイコンというか象徴だった。反戦運動とかプロテスト運動ね。フォレスト・ガンプにも出てくるワシントンでのもの凄い規模の反戦集会。あれにもちゃんと出てたんですね。キング牧師の有名なスピーチがあったあのイベントにも。
そして、新しいスタイルで歌を歌い始める。エレキを抱えてバンドを率いて。しかし、かつてアコギ抱えて歌っていたころに粘着して、新しいスタイルを否定するファン達。実は、ミュージシャン仲間も「あいつは、フォークを裏切った」とみていたこと。そういう恐ろしいまでの無理解の世界でひたすら音楽を作り続ける。DVD2枚目の冒頭に町にある看板の単語を使って「言葉遊び」を楽しそうにする無邪気な姿が出てくるんだけど、これが本質じゃないのかなと思う。
映像として、Dylanがエレキギターとバックに「ザ・バンド」を従えて「ロック」を始めた頃のイギリスでのライブ映像が壮絶。コンサートなのにだれも動かない、拍手も手拍子も無い。ただじっと座って「何やってんだ、お前は!?」って感情をあらわにしてる。恐ろしいまでの冷え冷えとした悪意。もの凄くいい演奏しているのに。
そしてプレスは、「プロテストシンガー」であり、「時代の代弁者」であり、「メッセージ」を曲に表すことを期待する、というか押し付ける。本人はただ、歌が唄いたかっただけなのに。
プレスインタビューの映像で、「あなたは、歌手ですか?それとも詩人ですか?」と訊かれて「唄って踊れる芸人だと思ってる」って答えとか「レッテル貼られるのが嫌いでしょ。でも私たち30歳以上のためにあなたの社会的役割にふさわしいレッテルと役割は?」って質問に、「そうだな、”30歳より若い”ってレッテルかな。役割はできるだけ長くここにいること」って答える。で、「今夜の反戦デモに参加する予定は?」って質問には「今晩は忙しい」だけってのがオカシイ。
あと、「プロテストシンガーと言う人はあなたの他に何人いますか?」みたいな質問で、「そう、136人ぐらいかな。う~ん、136人か142人のどちらかだな。」って、おい!随分、正確だな!ボブ。コメント面白杉。当然、映像の中も爆笑。
Bob Dylanを全然リアルタイムで体験出来なかった人(ま、日本のVoxerは当たり前か。)が当時の状況を理解しながら、「あぁ、こういう時代に生きたこういう人だったんだ」と理解するためには非常にいい素材です。しかも、特典映像として、本編では一部しか使われなかったライブ映像がちゃんとカット無しで入っているので、演奏を楽しみたい人も十分に満足できる。そんなに曲数は多くないけど。ただ、Bob Dylanがバイクの事故から8年振りに復帰したライブ映像で終わってるので、それ以降は全く触れられていない。まぁ、如何に当時のBob Dylanが誤解されていたのかを解き明かすという目的には不必要だったんだろう。
ちなみにみうらじゅんのサングラスはBob Dylanのマネだっていうのはよくわかった。
あと、これ、Apple Presentsです。でも、あのロゴが出てこない。何故だろう。間違いでした。Part 1の一番最初に白いのがガツンと出ます。出ない訳ないよね。
タイトルの「No Direction Home」は「Like a Rolling Stone」の中の一節。いつ聴いてもかっこいい曲だなぁ、これ。
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