なぜか久しぶりに読み返したくなって読んでみた。
ジョン・ル・カレ先生、ジョージ・スマイリー三部作「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」、「スクールボーイ閣下」「スマイリーと仲間たち」で一応終わったはずなのにどうしてもこれを書かないとジョージ・スマイリーっていう冷戦の裏側でひっそりと生き抜いてきたあの悲しい中年男の落とし前をこうやってつけないといけなかったんだなというのが最後の方に出てくるエピソードでじわっと心に沁みってくる。
基本は、スマイリーが新人たちに昔話をするっていうフォーマットなのに基本的な語り部はネッド。いろんなエピソードが短編小説のように収まってる。
それぞれのエピソードは短いだけにさすがに「寒い国から帰ってきたスパイ」みたいな深さと味わいは無いけど、どれもオムニバスのようで意外や意外、この辺から読み始めて「寒い国から~」に戻ってそれからおもむろに三部作を読むっていうのもアリなのかもしれない。
だいたい先生のスマイリーモノはどうも話がこんがらがってしまって、受け付けない人にはホントに難しいかもって思うから。
でも最後のほうでスマイリーが冷戦のことをこういう風に断定するのが、ル・カレ先生としてのけじめだったんだなと。
われわれの仕事が扱うのは人だ。大衆ではない。きみたちは気づいていないかもしれないが、冷戦をおわらせたのは人である。兵器でもなければテクノロジーでもなく、軍隊でも戦闘でもない。人だ。それも西側の人間ではなく、東側のわが仇敵だ。
冷戦を見つめてきたジョン・ル・カレとしてのスマイリーの終了宣言なんだけど、これって今の時代にも充分通用する見方だなと。そしてスパイの無力感を十二分に表現してる。
あと、常に歴史の裏側で蠢いていたスパイたち、影の巡礼者たちを慮るかのようなこんな言葉もスマイリーに語らせている。
歴史はおおかたの人間とは異なり、容易に秘密を明かさない。だが、今夜諸君に歴史の秘密をひとつだけ教えよう。それはこうだ。ときには勝者がまったくいないこともある。ときにはだれも敗者になる必要のないことがある。
そしてジョージ・スマイリーは退場する。
で、これだけでは終わらないのがジョン・ル・カレ先生。ちゃんとネッドにもこんなセリフを語らせて終わりにしてる。相手はイギリスの成り上がりの金持ちでこっそり武器商売をやって大儲けしているサーアンソニー。彼をネッドに説得させようというわけだ。
もうやめていただきたい。きっぱりと。あなたはナイトであり、巨富を有する身であり、自国に義務を持つことは十二年前もいまも変わらない。だからもうバルカンに手出しをせず、サーブで騒ぎを起こしたり、中米に紛争の種をまいたり、大量の銃を掛け売りで提供することはやめていただきたい。あなたや、あなたのような考えかたの人が、かかわりを持たなければ起きないかもしれない戦争を、金儲けの手段にするのはやめていただきたい。あなたはイギリス人だ。ふつうの人間が一生かかっても稼げぬ金をポケットに入れている。もうやめてほしい。きっぱりとやめてほしい。お願いしたいのはそれだけです。時代は変わりました。もうそんなゲームをやっているときではありません。
こんな正論を語らせるなんて。今読んでもなんか胸が熱くなる、というか顔が赤くなっちゃうじゃんか。これがジョン・ル・カレ先生の今の世界に対するメッセージだったんだなと。
そしてこれがネッド最後の仕事になる。その結果は読んでからのお楽しみ。結構、苦くて味わい深いです。
またスマイリー三部作、読み返そうかなぁ。ちなみに早川書房さんと東京創元社さんがガチで相手の本を褒めまくるというスゴ本オフは10/28です。(ごめんなさい、参加はもう締切りましたwww)
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