なんでこれがヤングアダルトにカテゴリー分けされてるのか、ちょっと不思議。この物語の背景を知らないと実にもったいないし、大戦が始まったくらいの「あのドイツがもうすぐ攻めてくる!どうしよう?」っていうハラハラドキドキ感は伝わんないかもなーって思う。今の中高生にあの戦争の始まりの辺りのドイツのイケイケ感とイギリスのもうヤバくないか?感が伝わるかなぁ。
ちなみに舞台となってるタインマスは作者の生まれ故郷で、北部の海岸線の町、つまり「バトル・オブ・ブリテン」の頃、ドイツが獲得したフランス北部の飛行場から飛んでくる爆撃機が飛んでくる辺りにあったわけだ。(参考:Wikipediaバトル・オブ・ブリテン)
前に読んだ「ブラッカムの爆撃機」がけっこうアッサリした内容だったのにこっちはもう内容てんこ盛りで、少年たちの成長譚としても充分に満足できる物語になってる。宮崎駿さんのコンテンツが混ざってた「ブラッカムの爆撃機」よりこっちのほうがずっと楽しめる。
筋は、1941年くらいのイギリス北部のタインマスっていうところに住んでいる少年たちが日々酷くなるドイツ軍の爆撃から、もうすぐやってくるであろうドイツ軍の上陸にどうやって対抗しようとしたか?を描いたチャス・マッギルっていう少年とその友達たちの戦いの記録。そこに同じガッコウのカラダだけデカイいわゆるいじめっこと親を爆撃で亡くしちゃったいじめられっこ、お転婆な少女、彼らに関わる地元の大人たち、それからなぜか敵国ドイツのパイロット、ナゾのドイツ兵、なんていうのが入り乱れつつ、最後の大きなクライマックスまで一気に駆け上がるみたいなそんな感じ。
戦争を子どもの目から描くとどうしても敵っていうのがあまりリアルに見えてこなくて「戦争をしてる大人」をみることになる。特にイギリスも島なので目の前の川の向こうに敵が居るっていう状況じゃなくて空から戦闘機が、爆弾がやってくるっていう状況になる。そうした状況を子どもなりに工夫して戦おうとする姿がなんとも胸キュン。いわゆる危なっかしいなぁともそんなのアリかよw的な感覚で。
そんな子どもたちの前にいかにも小説らしく、ドイツの戦闘機が落していった機関銃が見つかるのだ。そしてほどなくしてドイツ空軍のパイロットも。それがタイトルの機関銃要塞の意味。
物語がクライマックスに向かう時のその辺のドキドキ感は読んで下さい。成長譚だなぁと思うのは子どもたちの作った武器と要塞が役目を終えて、それぞれが親や保護者の元に帰っていく時に「もう会えないよな、オレ達。でもよくやったよな、戦ったよな」的な苦いオチが付いてるところ。そして親を亡くしたいじめられっこ、ニッキーが巡査部長におべんちゃら言われてから吐くセリフがふるってる。
「くそでもくらえ」少年はそう答えた。
ちょっと前に本の出だしの文章だけをカバーに載せてタイトルを隠して売るっていう紀伊国屋さんのキャンペーンがあった気がするけど、この本は是非この
「くそでもくらえ」少年はそう答えた。
をカバーに載せて売って欲しいって思えるぐらいに最後の最後でなんか今までのドキドキもハラハラも苦い結末も全部場外ホームランに出来るぐらいのカタルシスがやってくる。
そういう意味ではヤングアダルトなスゴ本です。胸がすっとした。苦味と痛みは残ってるけど。
前に読んだ「兵士ピースフル」のラストの一文も苦くて良かったのを思い出した。
次の日、連隊はソンムに向かう行軍に出発した。六月の終わり。我が軍は近く大進軍を予定していて、ぼくらの隊はその攻撃の一翼を担うのだそうだ。ドイツ軍をベルリンへ押しもどすのだと。そんな言葉は以前にも聞いた。
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