Happy Accidentsっていう原題のほうがずっとイイんだけど、でもそれじゃきっと手に取らなかったかも。「セレンディピティと近代医学 独創、偶然、発見の100年」っていう本を読んだ。
医学の進歩には計画通りの開発やら実験だけではなくて「ひょんなことから見つけちゃった意外な発見」が大事なのにそれを今の医学は否定する方向に行っているっていうことをこれでもかというぐらいの事例を持って説明しつつ、教育や製薬会社、ピアレビューの方法までしっかりと提案までしてくれてる。
一番最後にある
ジョン・バースが『船乗りサムボディ最後の船旅』の中で書いている。「計画したコースをたどってもセレンディピティには着かない。何かを信じてどこかに向かって出発し、そして思わぬ発見に向かって方向を見失わなくてはならない」。
これが医療を進化させる非業界人にはびっくりしちゃうけどズバリな言葉なんだろう。
前にがんの勉強会を企画した時に「がんって病気はやっかいだなー。店子でしかない細胞が変化してその大家たる自分の体を壊しちゃうんだから」っていう素人っぽい感想を持ったんだけど、そういう未知のやっかいな相手にアメリカ合衆国が1950年代後半から90年代なかばまでに終息するまで熱に浮かされたようになって「対がん戦争」を繰り広げて惨めに敗れ去った事例がとても面白い。
あのアメリカがこんなにも猪突猛進というか盲目的に「対がん戦争」に突き進んでしまったのはなんでだったんだろう?
214pにある1980年にNIH臨床センターでがん研究プロジェクトのリーダーだったゴードン・ズブロッドの結論が痛々しい。
「ある薬ががんに効くと最初に発見した人は、ほとんどの場合、最初からがんの薬を発見しようと思っていたわけではない。その薬の生物学的研究を行おうとした最初の動機、理論はほとんどが基礎研究、開発研究、大学、産業界など、他のところから来ている。そして大抵、がん以外の分野である。だから薬の最初の発見に関しては、計画して実行することは不可能なのだ。」
そういう事例がびっしりとあらゆる分野の医学において見られることがこの本でよ〜く分かる。お医者さんも開発者も大変ね。でもそうやってトライしながらエラーして「あれ?なんだろう?これ。ひょっとして何かみつけちゃった?」というのが必要なんだろう。そしてそういう訳わかんない発見を見付けられる瞬間を大事にしろと切々と若干のユーモアを含めて解説してる。
同じ章の206pにあるこんなのが正しいんだろうなぁ。これが1945年の答申なんだってんだからちょっと驚く。
過去において医学の発見は、しばしば非常に離れた、予想もしない領域から起きている。これはおそらく未来においても同じであろう。循環器病、腎臓病、がん、その他の手に負えない病気の治療において重要な進歩が、今後起きないとはいえない。起きるとすれば、おそらく予想外なもので、これらの病気とは関係ない領域での根本的な発見によるものであろう.....発見は命令では生まれない。そして更なる進歩を得るには、医学の分野全体と関連する生化学、生理学、薬理学、細菌学、病理学、寄生虫学などがそろって発展しなくてはならない。
いい本でした。医学のド素人が読んでも迷子になったりしないので、医学関連に興味が無い人に特にオススメしたい。
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