読めば読むほど、自己啓発本からは離れていってしまうという不思議な本、「スタンフォードの自分を変える教室」というのを読みました。
翻訳の神崎朗子さんとひょんなとこでお知り合いになって献本して頂いたのだ。実は神崎さんが前に翻訳した「ぼくたちが見た世界―自閉症者によって綴られた物語」という本の感想文を書いてそれをTwitterに流してたのを見つけて@してくれたのがお知り合いになったきっかけ。
で、今回の本はとてつもなく売れていて店頭でも平積みされてるし評判も高いし、なんかすごいライフハック系な自己啓発本かなーと思って読んでみたら、奥に行くほどに「脳という組織の奥深さ」というか「罪の深さ」を知ることになる本だったのだ。
基本は、例えば「なんでアタシってダイエット成功しないんだろう!」とか一般人なら誰もが抱く「うまくいかない自分」をどうやって「うまくいくようにするか?」というためのコツを、「やる力」「やらない力」「望む力」という3つのベクトルで分析し、解説し、しかも実験の方法まで書いてあるっていう実用書のはず、だったんですね。
なのに、どんどん読み進めていくと、「脳っていう組織はいかに脳自体のために人間を欺くか?」ということを様々な例を挙げて解説しているように思えて仕方がないんです。そしてその脳と人間の戦いはどう考えても脳のほうがエラいというか勝ってるように見える。
人は何かよいことをすると、いい気分になります。そのせいで、自分の衝動を信用しがちになります。多くの場合、悪いことをしたってかまわないと思ってしまうのです。(悪のライセンス 130p)
アメリカの国民は長いことダイエットに励んでいますが、体重を減らす方法としては、ダイエットはまったく役に立っていません。(略)ダイエットをした人のほとんどは、やがてダイエット中に痩せた体重が戻ってしまうばかりか、むしろ逆に増えています。(この章は読まないで 317p)
なんて引用を読みつつ、「人」や「自分」を「脳」に置き換えたり、なんで禁じられるとそれを更に欲するのか?なんてことを読んでみるとてみると、とてつもなく「脳」というのが利己的な存在だってわかってくる。
とにかく「自分=脳」が良ければ、それを支えている身体なんてどうでもいいぐらいに「脳」自体のために様々な感情や行動をドーパミンなどを使って制御しているっていうことがよく分かる。
要は、人間は「脳」の血と肉と骨でできた包み紙に過ぎないのだ、と。
ということで前に読んだ「「価値」はイリュージョンだ。絶対に。」も参考にすると脳という唯我独尊な器官の恐ろしさがより深く理解できる。
でもさすがに当代随一の人気講座、ちゃんとそうは言ってもこうすればその悪者にやっつけられないで済むわよ!っていうポイントを教えてくれる。こういう脳科学に属するような内容をライフハック的にまとめた」というのがこの本(というか講義)がウケた要因なんでしょう。
自分がなんでやっちゃいけないって言うことをやってしまって、やらなきゃいけないことをやれないのか?ちょっとでも疑問に思った経験がある人は読むべき。びっくりするから。
なんとなくだけど、「月は無慈悲な夜の女王」っていう傑作SFがありますが、そのタイトルに倣って言うならば、
「脳は無慈悲な欲の王様」ですね。
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