なんとなく精神疾患というか人間の精神って脆いよなーって思うことが十数年前に自分に起こったことから、人間の心の問題に興味を持った。そもそも心って何?って。
そんなわけでこんな本を手に取った。
「それは「うつ」ではない どんな悲しみも「うつ」にされてしまう理由」。
書いたのは精神疾患の専門家でラトガース大学とニューヨーク大学の教授。なので業界のなかのひとなわけで、序文にもDSMを作った人(ニューヨーク州立精神医学研究所精神医学教授、医学博士さん)がこの本を真面目に評価して検討するべきってオススメしている。
ココで問題になってるDSMは、きっと皆さんも目にしたことがあるかもしれない。統合失調症とか臨床心理に関していろいろな本を読むうちにワタクシも名前だけは知ることとなったのが問題のDSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders、DSM)。これについてはWikipediaをご参照。
あんまりDSMの内容を詳しく知らなくて、この本を読んで軽く驚いた。DSMにおけるうつ病(Depressive Disorder)の定義ってこういうことだったのか、というのがわかる。それによると二週間、以下の症状のうち5つ以上が続くこと。詳しくは以下参照してください。
A.以下の症状のうち5つ (またはそれ以上) が同じ2週間の間に存在し、病前の機能からの変化を起こしていて、少なくとも 1 つは、抑うつ気分または興味または喜びの喪失である。
①その人自身の訴えか、家族などの他者の観察によってしめされる。ほとんど1日中の抑うつの気分。
②1日中又はとんど毎日のすべてにおいて、すべての活動への興味や喜びが減退してしまう。
③食事療法をしているわけでもないのに、著しく体重が減少または体重増加、食欲の減退または増加がある。
④ほとんど毎日の不眠または睡眠過多。
⑤ほとんど毎日の精神運動性の焦燥または制止。
⑥ほとんど毎日の易疲労性、または気力の減退。
⑦ほとんど毎日の無価値観、または過剰であるか不適切な罪責感。
⑧思考力や集中力の減退、または決断困難がほぼ毎日認められる。
⑨死についての反復思考 (死の恐怖だけではない)、特別な計画はないが反復的な自殺念虜、自殺企図または自殺するためのはっきりとした計画。
B.症状は混合性エピソード(躁うつ病のこと)の基準を満たさない。
C.症状は、臨床的に著しい苦痛、または、社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
D.症状は、物質 (例:乱用薬物、投薬) の直接的な生理学的作用、または一般身体疾患(例:甲状腺機能低下症) によるものではない。
E.症状は死別反応ではうまく説明されない。すなわち、愛する者を失った後、症状が2ヵ月を超えて続くか、または、著明な機能不全、無価値観への病的なとらわれ、自殺念慮、精神病性の症状、精神運動抑止があることで特徴づけられる。
(出典:高橋三郎、大野裕、染矢俊幸(訳):DSM-IV-TR 精神疾患の分類と診断の手引,医学書院)
最後のEっていうのがポイントで要は、誰かを失った悲しみは普通は2ヵ月以上は続かない、だからそれが続くとすればそれはうつ病です、ということらしい。つまり飼い犬を失って3ヵ月も悲しみに沈んで上の①から⑨までの症状があると「あなたは立派なうつ病です」ということになる、と。
この著者はDSM自体は認めながらもこの部分に鋭いメスを当てているのだ。人間が進化してきた中で得た「悲しむという感情」をこの「疾患」中に杓子定規的に入れて「病人」にしていいのか?と。つまり大きな悲しみ(失業とか失恋とか受験の失敗とかetc.etc.)を受けて悲しんでいることすら病気にされてしまうのかマズイのではないかと。では、ここでのうつ病の定義は何か?というとコレ。
私たちは喪失反応のメカニズムの有害な機能不全によって引き起こされた悲哀を「うつ病」と呼ぶ。すなわち何らかの要因により、進化によって獲得された機能の一つを果たす内的メカニズムが阻害されていること、そして機能不全が有害なものであることだ。
こうやってみると随分と控え目な定義だなぁと思うけどそれにはワケがある。正常な悲哀は時間が経ったり、状況が変わったりすると減少する。だからたとえ機能不全を起こしていたとしてもそれが有害でなければ、薬に頼ることは無い、みたいな発想なのね。
そして自分たちが提案する疑問点や提案にも、「ホントにそれは妥当なのか?」みたいな検証がことごとく真面目に付与されてる。あぁ、マジメな人たちなんだなぁとわかる。
ざっと走り読みしただけだけど、DSMをベースにバンバンとプロザックとかパキシルとかが投与されちゃう状況に対してそうなってしまう原因(というかそれを支える人たちとはどんな人か?それはどういう利益があるからそうするのか?)を医師とか製薬会社とかWHOとかまで遡って考えたりする辺りが徹底している。もちろん、社会学とか人類学もきっちり槍玉に挙がってる。
もう少しちゃんと読みたいけど今は時間が無いので、とりいそぎ自分向けの「あとで読む」フラグとしてこの記事を公開しておこう。
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